日本の電力不足の現状もあり、テレビを見ていると様々な発電法の紹介がされている。太陽光発電、風力発電程度ならまだしも、中には随分とマニアックな発電法も登場する。それはそれで、面白いアイディアであり、いいのであるが、どう見ても原子力発電の代わりをできるようなものではない。コメンテーターが無責任に、「今はまだ少ない電力しか作れませんが、いずれこのような技術が発達すれば・・・」などと言っていたりする。
理系の立場からすれば、数字を用いた議論をするべきだと思う。その発電法だと、理論的にどのくらいの発電量を得られるのかといったことを議論するべきなのだ。このようなことを考えるときに頼りになるのは、やはり熱力学的な考え方である。
冷房の効率(理論的最大値)を考えるには、熱力学で出てくる逆カルノーサイクルというものをを考えればよい。もちろん、理論的最大値まで効率化することは様々な要因で不可能なのであるが、理想状態の最大値と現状を知ることは、今後の省エネ政策にも重要なことである。暖房の効率はもっと単純に議論することもできる。あるエネルギーをかけて部屋を暖め、(理想的に)無限時間その温度が下がらないのが最大値である。つまり、加えたエネルギーが100%部屋にのこるのが理論的な最大値だ。当たり前のような議論であるが、このことを意識することは重要である。つまり、(ある部屋の温度を一定に保っているとして)単位時間に暖房で部屋に加えているエネルギーは、その時間に部屋から外へ逃げていくエネルギーに等しいと言える。ここで、電気エネルギーを熱に変える効率がもうすでに十分高いとすると、暖房の効率には、部屋の保温性が重要になってくる。例えば、窓ガラスを二重にするとか、保温性の高い材料を壁に使うといった改良法を考えることができるだろう。
実際の現状や、壁の材料を変えるのにかかるコストやエアコンを改良するのにかかるコストなど具体的な数値を入れて計算することができれば、一気に実用的な議論になる。
非常に強力な熱力学だが、大学の講義で使用するような教科書の話題は抽象的すぎるものが多い。この本の著者は、元東大総長で、現在三菱総合研究所理事長の小宮山宏先生である。この本全体に、できるだけ具体例を入れて語ろうという考えが貫かれている。一度学んだが、抽象的すぎていまいちわからなかったという方は、この本の具体例に触れると理解が深まると思う。